今回はNOPEの『最悪の奇跡』について解説していきます。
個人的にこの4つが最悪の奇跡と言えるのではないかと考えています。
1:ゴーディの暴走
2:ジュープ
3:Gジャン
4:OJの父の死
この4つ。
この4つをメインに解説、そしてついでではありますが映画冒頭の言葉などいくつかの疑問点も解説していきます!
NOPEの感想についてはこの前の記事をご覧になってください。
最悪の奇跡1:チンパンジーのゴーディの暴走と直立した靴
ゴーディは架空のシットコム番組「ゴーディ 家に帰る」に出演しているチンパンジーです。
1998年、この番組の撮影中、演出に使った風船が破裂し、その音に驚いてゴーディが暴走します。
俳優やスタッフたちに襲い掛かり、なかでも女優は顔面の皮を剥がされるほどの攻撃を受けました。
ゴーディの暴走のシーンはNOPE作中で最も不気味で怖いシーンだったのではないでしょうか?
事件自体もある種、最悪の偶然が重なった嫌な奇跡と言えます。
たまたまゴーディの機嫌が悪かった。
たまたま風船を使うエピソードだった。
たまたま風船が割れてしまった。
泣きっ面に蜂、踏んだり蹴ったりみたいな偶然の重なりがあの暴走事件を引き起こしました。
しかしゴーディの暴走事件で最も印象的で最悪の奇跡と言えるのは直立した靴。
怒り状態のゴーディが片っ端から目の合った人間を襲っていたあの瞬間、あそこだけが周りの世界から切り離されたような、時間が静止したように靴がピタリ…と直立していました。
人の手でやろうとしてもなかなか難しいですよね。
あの直立した靴にはどんな意味があったのでしょうか。
ジョーダン・ピール監督はインタビューでこう語っています。
『この靴は、私たちが”トラウマ”から抜け出せる瞬間を表しています。ジュピは、ゴーディが暴れている間に、この小さなメアリー・ジョーの靴に注目した。この靴は、ありえない角度に安定していて、そこにジュピが注目している間は、ジュピは現実の悲惨な状況から、少し解離する。私にとっての靴は要するに、ある意味で不可能なショットで、不可能な瞬間なのです。』
元記事
ジュープは最悪の状況の中、奇跡的に直立していた靴を発見し、見ていたことでゴーディと目を合わせなくて済みました。
それはジュープの命を救った奇跡でもあります。
つまりこの靴はジュープの人生を変えた一瞬を描いたワンシーンだったんです。
最悪の奇跡2:愚かな人間の代表ジュープ
そんな経験したジュープは最悪の奇跡によって人生を翻弄された愚かでかわいそうな人間として描かれています。
子供のころのジュープにとってあの日は死がすぐ間近にあった状況の中で偶然生が降ってきたという、九死に一生スペシャルで紹介されてもおかしくない分岐点だったんですね。
しかしこの経験に幸運以上の意味をジュープは勝手に付け加えてしまいました。
結果的に命が助かった『だけ』なのに『運命』と捉えてしまいました。
自分は選ばれた人間だ、と。
大人たちはゴーディを飼いならすことができなかったが自分はどうだ?
心を通わせて友情があったから襲われなかった。
自分は種を超えた友情も育むことができると、そう考えてしまったんですね。
あの惨劇から偶然生き残れたのは最悪の中の奇跡でした。
たまたま靴が直立していて、それに気を取られていたこと。
たまたまビニール製のテーブルクロスが轢かれたテーブルの下に隠れていたために、ゴーディとダイレクトに視線を合わせなくて済んだこと。
偶然が重なったことで命拾いしただけなのに、自分が神に選ばれたのだと、自分だけがゴーディと心を通わせていたから襲われなかったと勘違いしてしまったわけです。
こう言っちゃあれですけど普通に考えると…
ホームラン級のバカですよねw
いやまあ、実際あんな状況で生き残ったら俺すげぇぇぇぇって思うのは無理ないかもしれませんし、ジュープのいた環境がそれに輪をかけたのかもしれません。
アメリカのショービズ界は白人社会で成り立っているのでどんなにがんばっていてもアジア系は差別されることが多々あります。
つい先日のアカデミー賞でもそんなシーンがありました。
わざとじゃないにしてもそこには『無意識の差別』が存在していると考えられます。
ジュープはそんななか頑張っていたのでストレスが相当蓄積していたのかもしれません。
だからこそ無意識の差別をしていた共演者やスタッフが次々とゴーディに襲われた中で自分が生き残った偶然を『神秘』『奇跡』と捉えてしまったのかもしれません。
ジュープが襲われなかった理由はただ目と目が合わなかったからです。
ただそれだけ。
ただチンパンジーには共感能力もあるらしいのでもしかしたら、微レ存、ジュープに親しみを覚えていた可能性もなくはないのかもしれませんけど、まあテーブルクロスがなかったらどうなっていたかは…。
ゴーディについての考察はこちらのブログがとても詳しかったので参考にどうぞ。
某恐竜映画の最新作の予告編で、主人公が小さい恐竜となんとなく心を通わせてるっぽいシーンあるけど、正直どんなにクオリティの高い映画でもあの描写だけで僕は観る気失せます。
恐竜なんて観たこともないのにねぇ…と白けちゃう…。(ファンの人ごめんね)
その後、大人になってもこの奇跡体験はジュープの中に強く根付いていて、もしかしたらさらに歪んでしまったのかもしれません。
未知の生物、おそらく地球外生命体とも思えるGジャンを飼いならそうとするんですから。
普通に考えたらあんな化物、飼いならせるなんて微塵も頭によぎることはありません。
しかしジュープは最悪の状況を生き残ったことで自分ならできると勘違いをしてしまったんです。
ゲン担ぎのように『ゴーディ家に帰る』の品々を保存し、自分は神に守られている、選ばれているときっとずっと思い込んでいたんでしょうね。
勘違いをしたまま大人になり、未知の生物Gジャンともきっと心を通わせることができると思ったジュープは心を通わせるどころか、餌付けを続けたGジャンにナワバリ意識を植え付ける結果となってしまいました。
そして目を合わせてはいけないというルールを破ってしまったジュープは喰われ、命を落としてしまうのでした。
最悪の奇跡に人生を狂わされた人物、それがジュープでした。
ゴーディ暴走事件の元ネタ:チンパンジーのトラビス
この事件は実際にあったチンパンジーのトラビスが起こした暴走事件を元にしています。
トラビスについてはウィキペディアに記事があったのでおいておきますね。
かなり強烈な話なので興味あればぜひ読んでみてください。
最悪の奇跡3:神罰の具現化Gジャン
NOPEの中でも特に目を引く存在がGジャンですね。
その姿や振る舞いはまさに化物なんですが、どこか神秘的な魅力があり、神々しさを感じさせます。
Gジャンは容易に人間を踏みにじる存在として、それだけでまさに最悪の奇跡とも言えます。
ゴーディとGジャンはNOPEにおいて同じ役割を果たしています。
彼らは自然の脅威の象徴であり、愚かな人間に対する神罰の具現化です。
この2つの存在は我々のような観る者に一つの教訓を与えています。
ある規則(ルール)を無視すれば厳しい罰が下されるという教訓。
それは他の生物は守っている自然の法則を人間だけが軽々破ってしまっているという教えでもあります。
この法則は人間が作り出した法律のようなものではなく、生物全体が守るべき規則であり、傲慢な人間だけが敬意を払わず簡単にこれを無視します。
そのルールとは『目を合わせないこと』
野生動物は視線に対して敏感です。
視線は自身への敵意や殺意を意味し、自分の命が危険にさらされていることを知らせ、逃げるか戦うかの選択を迫ります。
この2つの存在は自然(または神)からの強烈なメッセージであり、ルールを忘れ思い上がっている人間に敬意の欠如を戒めているのかもしれません。
最悪の奇跡4:OJの父親の死因
OJの父親の死は確かに最悪の奇跡でした。
OJの父親は空から降ってきたコインに撃ち抜かれて命を落としました。
空から何故かコインが降ってくる、これだけでもなんとも奇跡的な状況ですよね。
それだけじゃなくそのコインに撃ち抜かれるってどんだけ奇跡的な確率だったんでしょうか。
ちなみに人が隕石にぶち当たる確率は160万分の1らしいです。
わかりやすく比較してみますと、2023年の年末ジャンボ1等当選確率が約2000万分の1です。
あれ?
思ったより高い…。
まあ、とはいえ160万分の1です。
いや普通はコインが上空から落ちてくることはないですからもっと低い確率でしょう。
そういう奇跡が自分の父親に降り注いだことをOJは信じられませんでした。
で僕は最初、OJが父の死を受け入れられない理由を『コインに当たって死んだこと』だと思っていたんですが、実はOJは『コインがただ落ちてきただけで人が死ぬということ』を疑問視していたんじゃないでしょうか。
どういうことかと言いますと、5セント硬貨というたった5グラム程度のちっぽけなコインが遥か上空から落ちてきたとしても人間の頭蓋骨を貫くほど加速はしないということです。
父が死んだときに一瞬見た飛行物体はもしかしたら巨大生物だったのではと、OJは少なからず考えていたのではないでしょうか。
高層ビルから落としたコインに当たったら人はどうなるのか?というのを解析した会社があり、詳しく公表していましたのでこちらのページを参考にしました。
結果から言うと高層ビルからコインを落として下を歩いている人の頭に直撃しても死にはしません。
というかイテッってちょっと感じるくらいで大ケガをすることもまずないようです。
空気抵抗と重力が同じ強さになると、硬貨はそれ以上落下速度があがることはありません。
このことを終端速度(しゅうたんそくど)と言い、落下時の最高速度となります。
実際に複数の研究者がビルから硬貨を落とすという実験をしたところ、約15メートル落ちると終端速度に到達することがわかりました。
つまり、10階建てだろうが50階建てだろうが高層ビルの上からコインを落としても時速50キロ程度にしかならないんですね。
例え1万メートル上空でもそれは同じようです。
さてさて、NOPEに話は戻ります。
ほぼほぼ怪我のリスクもないようなたった5グラムの小さなコインがなぜOJの父親の頭部を貫いたのか?
空気抵抗が奇跡的になくなって落下速度がとんでもなく上がりまくって…ってそんな起きるはずもないような最悪の奇跡があるのか?
もしコインが頭蓋骨を貫くようなことがあるとすれなら、それはただ落ちてきただけじゃなくて、なにかしらの強力な力で押し出された、ぺっ!って感じで吐き出された物ではないでしょうか。
OJの父親の身に起きた最悪の奇跡とはッ上空から落ちてきたコインに当たったことじゃなく、Gジャンという未知の生物が上空にいたことなのかもしれません。
考察番外編1:ナホム書第3章6節とゴーディとGジャンと愚かな人間
映画冒頭にでた言葉
わたしは汚らわしい物を、あなたの上に投げかけて、あなたをはずかしめ、あなたを見ものとする
この言葉はナホム書に書かれたもので、これは予言であり人間に対する神の裁きを言っています。
簡単に言えば『傲慢な奴はそのうち痛い目にあうぞ』って感じです。
ゴーディはNOPEにおける『野生』の象徴で、人間に裁きを与える存在として描かれています。
またGジャンも人には扱えない『自然』の象徴であり、ルールを逸脱した人間への敵意の具現化として描かれています。
ゴーディもGジャンも不気味で恐ろしいですよね。
ゴーディの暴走は本当に本物の野生の怒りに触れてしまったという恐怖とか後悔がめちゃくちゃ伝わるパートでした。
Gジャンにおいては未知の生物で、まさに神の裁きのような、使徒のような存在ですよね。(使途がモデルだけに)
そして傲慢な人間は非常に愚かな生き物として描かれています。
勝手にコントロールできるとか飼いならせるとか思い込んで、決められたルールを破ったために当たり前にぶっころされる愚者として。
ジョーダン・ピール監督はNOPEで自然や野生動物に対して傲慢な人間に警鐘を鳴らしているんです。
こんな敬意もない向き合い方していたらいつか天罰が下るぞと。
ナホム書とは?
ナホム書は旧約聖書の文書の1つです。(エヴァ好きにはたまらない旧約聖書)
この書は全3章から構成されており、著者はナホムという名の人物です。
ユダヤ教では「後の預言者」に、キリスト教では預言書に分類されていまして、なにについて書かれた本かと言いますと
ニネベの陥落とアッシリアへの裁きです。
アッシリア帝国とニネべ
ニネべはアッシリア帝国の大きい都市でチグリス川上流にありました。
王立図書館もあったそうです。
首都みたいに大きい街として考えればいいでしょうか?
中学生の時にチグリスユーフラテス川って覚えた気がする…。メソポタミア文明。
ナホム書の第3章6節は、アッシリアの首都であるニネベに対する神の裁きを記しています。
なぜ神の裁きを受けるのかというと、アッシリアは古代オリエントの世界を支配した強大な帝国だったんですが、友好的に支配していたわけじゃなく、その強大な軍事力で他の国々を征服し、恐怖で支配していたんです。
アッシリアのお偉いさん方は神の法を破り、他の国々を蹂躙したというわけですね。
ナホム書はこの悪行を告発していて、神が裁きを下すという予言をしていました。
悪は栄えたためしなしって言うくらいですから、悪いことをすると必ずしっぺ返しがくるってことなんでしょう、
アッシリアの支配階級と市民は歴史から忽然と消え去る運命にあったとされています。
このナホム書第3章6節がNOPEの大まかなストーリー展開を教えてくれています。
考察番外編2:OJは生きていた?それとも幻?
ラストシーンにかっこよく登場したOJ。
しかしOJは実は死んでいて、あれはエメラルドが観た幻だったという説もあります。
たしかにGジャンに襲われて生きているとは考えにくいですよね。
けど最悪の奇跡の中に本当の奇跡があってもいいんじゃないでしょうか。
僕はOJが生きていたというハッピーエンドが好み。
まとめ
というわけでNOPEの『最悪の奇跡』の解説でした。
NOPEには人種差別とか搾取とかいろんなテーマが含まれていますけど、もうそこら辺に関しては他のブロガーさんたちがいっぱい書いているので、ここでは割愛!(文才と理解力なさすぎて逃げただけ)
まあでもNOPEはそういうテーマを知らなくても単純に楽しめるまさにスペクタクルな映画なので、まだ観てないって方はぜひご覧になってみてください!
今ならアマプラで観れますよ!